実家滞在中で仕事ができないので,我がポートフォリオのリターンをARMAモデルで推定してみた.こんなことをしているからといって暇なわけではない.
図1は資産総額推移である.記録を始めたのが2021年8月21日で400近い日次データが集まったので時系列分析の標準的な手法を適用してみることにした(決して暇なわけではない).見事なまでの右肩上がりでわくわくするが,標準的な時系列分析ではまず単位根検定を行い,このデータが定常か非定常かを判定する.実際,この資産額データは非定常と判定される.
図1:資産総額推移
定常(弱定常あるいは共分散定常)データは1次と2次のモーメントが時間に依存しないという統計分析に都合のよい性質を持つ.通常は定常データに変換した後に分析を進めることが多い.もちろん非定常データから得られる情報もあるので,非定常データ自体を分析することもあるが,1変量のファイナンスデータでは特に有益な情報はないので,資産額の対数差分を取ってその成長率(収益率)データに変換する.この時系列データは単位根検定を行うと定常と判定される.図2は図1の資産額の対数差分をとったデータである.定常過程の特徴である一定の平均が0付近にある(実際平均は0.0011)ことがわかるだろう.
図2:資産額成長率
株価や為替レートなどのファイナンスデータの特徴はその収益率(成長率,増減率)に強い自己相関がないことにある.もし,強い自己相関があれば,それはすなわち過去の収益率から未来の収益率の予測ができることになってしまう.市場参加者が十分に情報を利用でき,取引が十分にスムーズに執行されるような場合,合理的な投資家は皆が皆,自己相関の情報を利用して,未来の収益率を予測するのでその結果価格が利益を縮小する方向に調整され,儲けの余地はなくなってしまう.それゆえ,収益率系列に自己相関が無いことを市場の効率性と定義することもある.図3は我がポートフォリオの成長率系列の自己相関関数である.自己相関は全くないわけではなく,小さい値だが1次の自己相関が有意に正であることがわかる.
図3:資産額成長率の自己相関
図4には資産額成長率の2乗系列の自己相関をプロットした.成長率の2乗すなわち成長率のゼロからの2乗距離なので,変動幅を決めるパラメータすなわちボラティリティを反映するものと解釈できる.よってこの系列に自己相関があれば,過去のボラティリティから未来のボラティリティを予測できる余地が生まれる.実際,ファイナンスデータでは収益率の2乗系列に有意な自己相関がみられ,これがGARCHタイプのモデルをファイナンスデータに適用する動機になっている.しかし,我がポートフォリオの場合では特に自己相関は観測されないので,ボラティリティが時間を通して一定のモデルで十分であると考えられる.よって,以下では我がポートフォリオの資産額成長率を単純な定常ARMAモデルで推定してみる.
図4:資産額成長率の2乗の自己相関
定常ARMA(p,q)モデルの推定に際して,次数選択の基準としてAICを用いた.結果はARMA(0,1)モデル,すなわちMA(1)モデルが選択さた.定数項は0.0011,1次のMA係数は0.149と推定され,どちらも1%有意であった.よって日次成長率は有意に正で日率0.11%(年率換算28%)で成長してきたことはこれまで記録してきたとおりである.またMA(1)モデルが選択されたのも,成長率の自己相関の形状から当然というべき結果であった.残差診断の結果は省略するが,特に問題はなく,統計的には妥当な推定結果といえるので,最後に予測を実行する.しかし,統計的に正しいからと言って,この予測を真に受けてはならない.それは訓練データ(推定に使ったデータ)がコロナショック後の鬼パフォーマンス期(2021年と2022年)であるので,ここで推定されたモデルを使った予測はその絶好調期が続くということを前提においたの予測になっていることを忘れてはならない.また今回は5年後までの長期予測を実行したが,これは統計理論上あまり意味はない.というのもAICは1期先の予測の精度を最大化するが,その先については何も言っていないので,長期予測の精度については何も保証はない.まあどうやっても長期予測なんて無謀なので,何もないよりAICで選んでおこうかぐらいのノリである.じゃあなんで予測なんてするのかというと,これは完全に数値というかグラフを見てニヤニヤするためである.今回は推定されたMA(1)モデルを使ってシミュレーションを100回繰り返して予測してみた(図5).赤線はシミュレーション値の平均でこれが点予測となる.この値がいつもブログに記録している「超富裕層(資産5億円)まであと〇〇年」の根拠になっている水準である.図5の5年後2027年1月のところをみると,最低でも2.5億は超えていることがわかる.
図5:資産額のシミュレーション予測
暇ではない,絶対に暇ではないのに長文を書いてしまった.こんなのを書いていることが現実世界の職場でバレてしまったら,余計な仕事が降りかかってきそうだが,正月ぐらい好きにさせろい.
実家のこたつでみかんを食べながら
2022年1月2日
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